研究室通信

放送大学・白鳥潤一郎研究室(国際政治学/日本政治外交史)のブログです。

『東京人』2017年4月号

 年始に開設してからすっかりブログを放置をしてしまいました。今後は仕事の紹介がてらぼちぼち更新をしていこうと思います。

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  久しぶりの更新をするのが3月11日というのも何かの縁かもしれません。

 

 昼間こんなツイートをしました。東日本大震災について当時大学院生だった自分に出来ることはほとんど無かったし、それは今もあまり変わりません。ただ、その時に抱いた想いを忘れずに、いずれ研究としても取り組んでいきたいと考えています。

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 3月3日発売の『東京人』2017年4月号はなんとなんと国立公文書館特集。「探検!国立公文書館 資料の海を渡る歓び」という文字列が一般誌に並んでいるのは驚きです。

 東京人 2017年 04 月号 [雑誌]

東京人 2017年 04 月号 [雑誌]

 

 僕もアジア歴史資料センターの取材及び紹介記事をお手伝いしました(「アジア歴史資料センター:パソコンから広がるアジア近現代史の世界」)。波多野澄雄センター長のインタビューは簡潔にアジ歴の来歴や今後の展開を紹介するものになっています。目次にはズラリと豪華なメンバーが並んでいます。読み物としても面白い特集ではないかと思います。

 今回の『東京人』で個人的に印象に残ったのは巻頭座談会における細谷雄一先生の以下の発言です。

記録がない国は記録がある国に反論できない、常に不利な状況に立たされる……領土問題に限りませんが、自らの利益を主張するとき、それが客観的な記録によって裏打ちされなければ、世界から信頼されません。その意味で、外交記録およびその活用は、国益の根幹そのものと言っていいでしょう。

  公文書管理法に先立って情報公開法が施行されてしまい、その期間が約10年続いてしまったことの影響は小さくありません。残念ながら、現状では「公文書」として残せば情報公開請求の対象になるだけで面倒だという近視眼的な思考が官の世界には蔓延しているように思います。その意味では、少なくとも外務省はそれなりに記録を残していた情報公開法成立以前よりも現状はむしろ後退しています。過去の政策の検証材料を残すということに加えて、細谷先生が強調される未来の国益を守るという視点が政治家や官僚にもう少し理解されるようになると良いのですが、現状はなかなか厳しいのかもしれません。

 文書を公開することの意義についてこの座談会で五百旗頭真先生は次のように言っています。

きちんと資料を出すことで、国民の見方も、あるいは世界の見方も変わってきます。実際、戦後の日本外交の評価といえば、もっぱら「対米従属」が相場でしたが、実は米国に対してはっきりものを言っていたり、米国とは異なるアプローチでアジア諸国との信頼関係を深めたり、多様な側面が見えてきました。「由らしむべし、知らしむべからず」は権力の常ですが、国民は愚かではありません。記録を公開することで、国民は自国の政治に誇りを持てるようになるのです。また世界に対しても、一国史観ではない、開かれた歴史認識を提供する一助になるのです。

  この座談会で細谷先生が最後に強調されているのは「予算と人員の拡充」という課題です。『東京人』の誌面にも具体的な数字が出ていますが、日本の公文書館は主要国の中で最低水準の人員しかおらず、隣国の韓国と比べても3分の1しか職員がいません。

  このような現状や課題が少しでも多くの人に理解され、より良い方向に進んでくれるよう今後も微力を尽くしたいと思います。

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