研究室通信

放送大学・白鳥潤一郎研究室(国際政治学/日本政治外交史)のブログです。

国立公文書館新館建設と外交記録公開(その1)

 6月15日付のブログ記事にも書いた通り、国立公文書館の新館建設に向けた動きが本格化しています。

jshiratori.hatenablog.com

 周知の通り、日本の公文書管理は諸外国と比べて著しく遅れていました。福田康夫内閣の下で始まった取り組みが実を結んで公文書管理法が成立したのは2009年6月24日のことであり、民主党政権下の2011年4月1日に施行されました。東日本大震災への対応に関連して多くの会議体で議事録が未作成だったことが問題となったことも、また今春の国会で森友学園加計学園をめぐる各省庁の文書の存在が問題となったことも、公文書管理法が存在していたからこそ問題が問題として認識されました。その意味では、依然として取り組みは遅れているものの、従来と比べれば少なくとも国民レベルでの意識は変わりつつありますし、状況は改善していると言ってもいいのかもしれません。国立公文書館新館建設問題は、こうした公文書管理に関する流れの延長線上にあるものです。

 

公文書をつかう: 公文書管理制度と歴史研究

公文書をつかう: 公文書管理制度と歴史研究

 

 

 公文書管理法制定に至る経緯の詳細は、瀬畑源『公文書をつかう:公文書管理制度と歴史研究』(青弓社、2011年)第1章、をご覧頂ければと思いますが、ここでも簡単にまとめておきます。

 公文書管理法に関する動きは2005年3月に「公文書管理推進議員懇話会」(代表世話人福田康夫、事務局長:小渕優子)によって始まったもので、福田内閣が2007年9月に発足、同年12月に議員懇話会が福田首相に緊急提言を提出、直ちに「行政文書・公文書等の管理・保存に関する関係省庁連絡会議」が設置されたことで公文書管理法制定に繋がる流れが作られることになりました。この際に有識者会議が公文書館新館建設を提言しながら立ち消えになったという経緯があります。

 公文書管理法施行後も議員懇話会の活動は継続し、2014年2月には超党派の「世界に誇る国民本位の新たな国立公文書館の建設を実現する議員連盟」(会長:谷垣禎一、会長代行:河村建夫、幹事長:上川陽子)が結成され、同年5月には新国立公文書館の建設に向けた安倍晋三首相宛の要請が行われます。そして翌2015年4月に内閣府に「国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議」が設置され、20回の検討を経て、本年3月に「新たな国立公文書館の施設等に関する調査検討報告書」(PDF:リンク)が提出されることとなりました。

 新館建設に関する調査検討会議の動向については、瀬畑源さんが『時の法令』の連載「公文書管理と日本人」(第4回〔2016年7月30日号〕/第11回〔2017年2月28日号〕)でも取り上げられていましたし、若干気になるところはあったものの、昨年度はなかなか時間も取れず、しっかりと検討することがないままにここまできていました。そうしたなかで読んだのが小池聖一先生の下記の論文です(リンク先のリポジトリにPDFがアップロードされています)。

国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議について - 広島大学文書館紀要 18号 - 学内刊行物 - 広島大学 学術情報リポジトリ

 調査検討会議の半ばで公表された論考ですが、会議の議事録等を中心に丁寧に検討し、展示重視に偏る姿勢や、安易な拡大路線に警鐘を鳴らす内容となっています。この論考を読むなかで、どうやら外交史料館(を含む「国立公文書館等」)について国立公文書館への集約が望ましいと考えられている様子が伝わってきたため、これはしっかりと調べないとまずいという考えに至り調べてみたところ、かなりまずい状況になっていることが浮かび上がってきました。

 これも様々な経緯があり、必要があれば次回以降の更新の際に触れることにしますが、ここでは「新たな国立公文書館の施設等に関する調査検討報告書」に基づいて現状を記載しておきます。報告書のメインはあくまで新館施設の整備方針であり、それについても思うところはありますが、ひとまずは外交史料館に関わる点に絞ります。

 報告書では、整備方針及び「施設整備と並行して推進する取り組み」に続いて、「新たな施設の整備を契機として検討すべき課題」が22頁にまとめられており、直接外交史料館に関わる点として特に重要なのは以下の部分です。

類似の機関が所蔵する文書に関しては、デジタルによるネットワーク化を図るとともに、可能な範囲で国立公文書館に集約する方向で検討されるべきであるが、これについては、今後、関係機関との意見調整が必要になろう。 ※外務省外交史料館宮内庁書陵部宮内公文書館防衛省防衛研究所

 この手の有識者会議の報告書をどのように読み解くかはなかなか難しいものがあり、時の政権の方針や政局次第では一切無視されることもあるのですが、内閣府主導で「明治150年」関連施策が進められる中で国立公文書館新館建設が触れられていることもあり(例えば、「「明治150年」関連施策の推進について、2016年12月26日〔PDF:リンク〕3頁)、前段の「デジタルによるネットワーク化」はともかく、このままでは主たる利用者である外交史研究者やメディア関係者といったユーザーの視点が一切無いままに、いつの間にか「集約化」という方向で話が進んでしまうのではないかと危惧しています

 有識者会議ではこの点についてどういった議論が行われてきたのかといったことや、「集約化」はなぜ問題があるのかについて触れようというところで、出かける時間になってしまったので、ひとまず今回はここまでで止めておきます。