研究室通信

放送大学・白鳥潤一郎研究室(国際政治学/日本政治外交史)のブログです。

国立公文書館新館建設と外交記録公開(その2)

 前々回、前回に続いて国立公文書館新館建設と外交記録公開に関する話です。順番としては有識者会議における議論の検討を先にした方がスムーズではあるのですが、その前に、外交史料館の所蔵文書を「国立公文書館に集約する方向で検討」することにどのような問題があるのかの一端をまとめておくことにします。

 

jshiratori.hatenablog.com

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 繰り返しになりますが、「新たな国立公文書館の施設等に関する調査検討報告書」(PDF:リンク)の該当部分(22頁)を引用しておきます。

類似の機関が所蔵する文書に関しては、デジタルによるネットワーク化を図るとともに、可能な範囲で国立公文書館に集約する方向で検討されるべきであるが、これについては、今後、関係機関との意見調整が必要になろう。 ※外務省外交史料館宮内庁書陵部宮内公文書館防衛省防衛研究所

 提言は、外交史料館・宮内公文書館防衛研究所等が所蔵する文書について「デジタルによるネットワーク化を図る」こと、そして「可能な範囲で国立公文書館に集約する方向で検討されるべき」ことです。

 これはあくまで有識者会議の報告書のなかの「新たな施設の整備を契機として検討すべき課題」の一環として掲げられているものであり、全てが決定事項というわけではありません。また、前段が「図る」とされているのに対して、後段は「検討されるべき」に留まり、さらに「これについては、今後、関係機関との意見調整が必要になろう」とされています。前段の「デジタルによるネットワーク化を図る」ことは、現在は各館で提供されているインフラが使える限りは、利用者にとっても基本的にプラスであり、それほど問題はありません。

 気になるのは、後段の「可能な範囲で国立公文書館に集約する方向で検討されるべき」という部分です。外交史料館と宮内公文書館は「国立公文書館等」であるのに対して防衛研究所の史料閲覧室は違うなど細かな点で気になることもありますが、差し当たりは政府機関である外交史料館・宮内公文書館防衛研究所等が所蔵する文書を独立行政法人である国立公文書館に集約するという方向になっていることがこの提言の第一の問題です

 独立行政法人は、いわゆる橋本行革の一環として実現したもので、「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人」です。この定義に従えば、国立公文書館は「国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもの」という位置付けということになります。今回の報告書はあくまで新館建設に関する検討結果なので当然ではあるのですが、今後も国立公文書館を再び政府機関にするということは予定されていません。

 外交史料館と宮内公文書館が政府機関のままに「国立公文書館等」という位置付けになった経緯はそれぞれ異なると思いますが、差し当たりは両館は例外的な位置付けとなっており、その他の省庁とは異なり政府機関自らが「歴史的公文書等」の移管・公開を責任を持って実施する体制となっていることは押さえておくべきでしょう。国立公文書館への文書の集約はこうした例外的な体制を見直すことを意味します。ワンストップで利用者に文書を提供すると言えばユーザーフレンドリーに響くと思いますが、国立公文書館の実態を知っていれば、文書の集約は利用者にとっては基本的にマイナスしかないことは明らかです

 高山正也氏(国立公文書館前館長)は「毎日新聞」の取材に対して次のように答えています(リンク)。

公文書の保存期間が終わった後、国立公文書館に移管するかどうかについても事実上、省庁側の裁量で決められている。法的には公文書館も意見を言えることになっているが、独立行政法人(独法)という立場で人員も圧倒的に少ないため、ほとんど機能しない。結果、重要な文書は捨てられ、そうでない文書ばかりが移管されてくるように見える。自虐的な言い方をすれば、国立公文書館はまるで政府の「紙くず箱」のようだ。

 日本のお役人は記録を残したがらないようだ。これを残したら後で何か言われるのではないか、先輩の顔に泥を塗ることになりはしないかなどと、気を回しすぎるのではなかろうか。

高山正也

 引用に続いて指摘されているように、国立公文書館の人員増(若干ではありますが)も認められていますし、状況は少しずつ改善してはいますが、あくまで漸進的なものであり、新館建設に併せて独法から政府機関に戻すといった抜本的な改革が行われるわけではありません(本筋からはずれますが、この取材では「学界の動きが鈍いのも残念だ。日本では公文書の専門家は歴史学志向が強く、文書管理自体の学術分野が確立していないことが致命的な問題でもある」とも指摘されています。微力を尽くして頑張ります)。

 

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 ここに続いて、外務省がこれまでどのように文書公開に取り組み、公文書管理法施行後にどのような体制となっているのかを書こうと思ったのですが、ぼちぼち寝ないと明日に響くのでひとまず今日はここまでにしておきます。