研究室通信

放送大学・白鳥潤一郎研究室(国際政治学/日本政治外交史)のブログです。

「日米経済関係のリスタート:ハイレベル対話の射程と効能」『外交』(Vol.43、2017年5月)

 「仕事」ではなく「お手伝い」が正確かもしれませんが、『外交』(Vol.43、2017年5月)に聞き手を務めたインタビュー記事が掲載されました。語り手は山野内勘二外務省経済局長、タイトルは「日米経済関係のリスタート:ハイレベル対話の射程と効能」です。

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外交 Vol.43 特集:世界経済の変動と日本

外交 Vol.43 特集:世界経済の変動と日本

 

 

 山野内氏は、若手時代に北米第2課で日米構造協議を担当し、細川政権では鳩山由紀夫官房副長官秘書官、その後第一次安倍政権末期から民主党への政権交代直前まで北米第1課長、鳩山政権では首相秘書官、そしてTPP交渉が佳境を迎える時期に駐米公使(経済担当)等を歴任し、2016年6月から経済局長に就いています。非常に難しい時期に重責を担うポストを務める「必殺仕事人」といったところでしょうか。そして今回は、ヒラリー・クリントン政権成立かと思われていたところでまさかのトランプ政権を迎えるという形です。

 今回のインタビューは、山野内氏がアメリカで目撃したトランプ台頭から入り、日米経済対話に焦点を当てつつ、今後を展望しています。詳しくは是非インタビューを読んで頂ければと思いますが、若手時代に経験された往時の日米貿易摩擦との比較の観点、そして厳しい現場に立ち続けた実務家ならではのある種の楽観的な見通しがとても印象に残りました。

 

——第二次大戦後に築かれたリベラルな国際経済秩序が揺らいでいるとの懸念もありますが……。
山野内 長期的に見れば、第二次大戦への反省から多角的貿易体制としてGATTが発足し、数次のラウンド交渉を経てWTOになりました。ただ、ウルグアイ・ラウンドあたりからは交渉の厳しさが増し、今世紀に入ってのドーハ・ラウンド新興国をまとめきれずに停滞しています。そこで地域のFTAが進んでいくという展開になっていますが、グローバル・サプライ・チェーンの時代に貿易ルールの確立と競争条件の平準化を目指すのであれば、「さまざまなアプローチから国際経済や貿易・投資の基準を築く」という営みが終わることはありません。TPPの他にも、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)や東アジア包括的経済連携(RCEP)の構想もあります。この流れは、今も変わっていないし、将来もそうでしょう。

 

 インタビューを収録した5月頭と比べると、アメリカ、そしてイギリスの政治も益々予断を許さない状況になっていますし、米欧関係も潮目が変わったように思います。米英両国の動向に加えて、新興国が経済的に台頭し、G7主導の国際経済秩序管理が揺らいでいる現状は、より大きな変化をもたらすのではないかと私は考えています。それでも実務者は、新たな状況のなかで対話や交渉を進めていかなくてはならない。公に語る話も含めて「外交」の一部分ですから、語られた楽観的な見通しだけでなく様々な見通しを立てていることと思いますが、前向きな姿勢が無ければ前には進みません。

 本題の日米経済対話の展望はもちろんのこと、上記の実務家と研究者やメディアとの見方の違いについても率直に語っているところも読みどころでしょうか。